「織央が駆け落ちした……お前、代わりに優海さんの婚約者になってくれ!」
ひと月前、アルバイトから帰宅すると、いつもは俺を空気として扱っている父がそう叫んで土下座をしてきた。
「兄さんが、駆け落ち……?」
「何があったのか、わからないが――」
両親は俺に何度も何度も頭を下げて「お願いだ」と懇願されてそれを了承した。
俺は自室に戻り、婚約者になるであろう“優海さん”を思い出していた。
――小桜優海先輩。
俺が通う高校の先輩で、小桜グループ会社のご令嬢であり学校内で一番と呼ばれるほどの美少女。そして、俺の初恋の人だ。