すてられた想い人をなぐさめたら、逆に私がひろわれました!?
私じゃダメかな?
「鍵、出せるか?」

 聞かれてカバンの外ポケットのファスナーを開けようとガサガサしたけれど指先に上手く力が込められなくて苦戦する。

 思わず「う〜」ってうなったら「貸せ」って柳川(やながわ)が開けてくれて。
 私はやっとの思いで鍵を手にした。
 だけど今度は上手く鍵穴にさせないとかね。

 結局ファスナーを開けるのだけでなく、鍵を開けるのも扉を開けるのも柳川がやってくれて。

 私は扉横の壁にもたれかかったまま柳川の手の動きをうっとりと眺めているだけだった。


「ありがと……」

 何とか口調だけはマトモになってきたけれど、まだ頭はふわふわとしていて。

「ここで見ててやるから部屋ん中入ったらしっかり鍵かけろ。で、酔いが覚めるまで風呂とか入んな? 分かったな?」

 玄関先で、一歩たりとも中に入ってこようとしないままにそう言って来た柳川を見上げたら、切ないぐらいに離れたくないって感情が湧き上がってきた。

「ね、柳川……歩くのとかまだ微妙でその……不安だし……わ、私の……酔いが覚めるまででいいから……」

 ――もう少し傍にいて欲しい。

 1番伝えたい要求は言葉にできなかったけれど、いくら柳川でも分かってくれる、よね?

「お、お茶くらいは出す……から……」

 恐る恐る問いかけた声は、自分でもびっくりするくらい震えていて。
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