すてられた想い人をなぐさめたら、逆に私がひろわれました!?
チャンス到来?
「ねぇ言凛(ことり)、聞いた?」

 大学に入学してからたまたま学籍番号が近かった絡みで仲良くなって、以来ずっと一緒にいる仁科(にしな)(かえで)が、教室に入るなりポンッと肩を叩いて顔を覗き込んできた。

 2年生になってやっと。
 眼鏡をやめてコンタクトレンズデビューを果たした私と違って、楓は出会った時からラピスラズリ色のカラコンを入れたお洒落女子だった。

 そんな彼女が、光が当たると黒目の縁取りがブルーがかって見える綺麗な目で、じっと私を見つめてくる。

 灰色(グレージュ)の、前下がりボブが楓の動きに合わせてふわりと揺れた。
 ゆるっと当てられたパーマも、エアリーでとっても可愛く見える。

 今日はパフスリーブになったクロシェ編みの白いサマーニットに、後ろがレースアップになったオフホワイトのデニムを合わせた楓は、165センチあると言うそこそこの高身長を支える長い脚に、パンツルックがよく似合うことを誰よりも知っているの。


 対する私は、ベージュの花柄ブラウスに、くるぶしまで隠れるようなAラインのデニムスカート。

 腰まであった長い黒髪を適当に編み込みにしていた頃の名残(なごり)で、顔横の束ね髪に触れようと手を伸ばしてから、空振りして。
 そこでようやく「あ、髪、切ったんだった」とハッとする(てい)たらく。

 ヘアカラーデビューも、ミディアムロングデビューも、コンタクト同様まだ1ヶ月半しか経っていないヒヨコ女子なので、どうも色々馴染まなくてダメ。

 上げた手を、所在なく肩口を少し超えた辺りで切り揃えたオリーブベージュの髪に伸ばすと、横髪を耳にかける仕草をして誤魔化した。

 私がこの髪型を真似るきっかけになった後輩の女の子は、もっと自然な動作で髪に触れるんだろうな、とかぼんやり思いつつ。
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