すてられた想い人をなぐさめたら、逆に私がひろわれました!?
お腹空かない?
「ね、前に柳川(やながわ)が気にしてたすっごく綺麗な変形菌の本買ったんだけど、見る?」

 結局柳川は今日1日どの講義にも出てこなくて。

 帰っちゃったのかな?って思ったんだけど、研究棟の片隅でその姿を見つけた時には、柳川の背中があんまりにも寂しそうでギュッと胸が苦しくなった。

「あー、鳴宮(なるみや)か……。ってもう夕方?」

 ぼんやりと、どこか焦点の合わない瞳で見つめられて、私は泣きたいくらいに切なくなった。

「まさか柳川、講義サボって1日中変形菌(その子たち)が迷路解くの見てたの?」

 机上に置かれた黄色い変形菌(モジホコリ)入り迷路のシャーレを見て、「ずっるーい」とわざとクスクス笑ったら、「たまには、な」と薄く笑われた。


「――ね、柳川。お腹空かない?」

 きっとコイツ、今日はお昼も食べてない。

 そう思った私は、ポンッと柳川の肩を叩くと「私、お腹ペコペコなんだぁー。久しぶりに『菌次郎(きんじろう)』へ行こうよ」と努めて明るくニコッと微笑(わら)って見せた。
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