冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
深まる違和感 SIDE 一矢
 なにかがおかしい。それは、妻を迎え入れた直後から感じていた。

 三橋優との結婚は、父親から突然知らされたものだった。なんの冗談かと思ったが、どうやら真面目な話だったらしい。

 緒方総合病院の院長である父と製薬会社の社長である三橋正信とは、以前より仕事を通じて知り合いだった。もともとこの辺りはほかの製薬会社が出入りしていたが、販路の確保に力を入れ出したのか、少し前から三橋の社員が頻繁に顔を出すようになっていた。こちらとしてはより多くの商品を比べられるのだから、時間は取られるが悪い話ではない。

 仕事に関して貪欲な三橋社長は、うちと懇意になって自社の製品を優先してもらおうと画策していたようだ。
 むろん、人の命を預かる以上、より有効な薬があるとなれば三橋ばかりを優先するわけにはいかない。彼はそれを承諾した上で、それでも可能な限り融通してくれるのならばと押し通してきた。

 院長としても、三橋を優遇して費用を抑えられるのはかなりありがたいところだったはず。大きな病院とはいえ、必ずしも常に経営が安定しているわけではないのだから。資金援助などというあからさまな形はとらなくとも、つまりはそういう結果になるのだろう。
 おまけに父は医者としての腕はたしかだが、経営面は不得手だった。この話を受けたぐらいだ。彼なりに、経営上まずいと感じていることがあったのかもしれない。

 どちらもそれなりのメリットがあるとなれば、それを確固たるものとするために縁談をとなるのは当然の流れだ。都合よく、両家にはそれぞれ年頃で独身の娘と息子がいるのだからなおのこと。少しばかりの年の差も、男である側が年上ならば許容範囲だ。

 病院を継ぐように言われている以上、いつかは結婚をして跡取りを残さなければならないだろうとわかってはいた。それはどこか諦めにちかい感情だったのかもしれない。

 俺としては、もう少し仕事に集中していたかったが仕方がない。〝いつか〟というのが今なのだと思えば、相手もいなかったのもちょうどよいタイミングだと、自然と受け入れる気持ちになっていた。

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