若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい

《3》


 豪華客船『羽衣 ―hagoromo―』で行くロサンジェルス発東京着72泊73日の旅。十月の末から翌年一月の七日までという年末年始に合わせて就航される特別なクルーズの案内を前に、カナトは苦笑する。

「ずいぶん派手に仕掛けたものだな」
「正路さまのご命令ですから」
「商談を息子に任せっきりでよく言うよ」

 日本から飛行機でアメリカへ飛んできたカナトは、到着そうそう父親の代理としてBPW本社応接室に行く羽目に陥った。足が痛いとか腰が痛いとか子どもじみた言い訳をしてホテルにこもってしまった父親に呆れながらも、なにかと年だし仕方がないかと思ってしまうカナトである。
 案内されたソファに腰かけてため息をつく彼の隣では、自分が子どもの頃から傍にいる伊瀬が無表情で座っている。
 テーブルの上にはハロウィン、クリスマス、ニューイヤーを目前にしたイルミネーションと南国の海の写真がふんだんに使用された世界周航旅行のパンフレットが山のように積まれている。そのなかのひとつを手に取り、カナトはふんと鼻を鳴らす。
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