若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
chapter,3 Hawaii

《1》


 翌早朝。ハゴロモの最上階にあるプレミアムスイートの使用人控え室で目を覚ましたマツリカは、シャワーが反響する音に気づき、慌てて身体を起こす。
 キャリーバッグに詰めておいた部屋着をパジャマがわりにしていた彼女は、カナトがスイートルームに併設しているシャワールームにいるあいだに身なりを整えようと掛けておいた制服を手に取る。
 ハゴロモのコンシェルジュが船内で着用しているユニフォームはアメリカ海軍ではなく海兵隊のブルードレスをモチーフとしている。海兵隊の正装を彷彿させる濃紺のジャケットは男女共通で、男性は白のズボンを、女性はシンプルなタイトスカートを着用している。海兵隊のものと比べるとラインを縁取るリボンのカラーが紫紺色で、飾りボタンの色もくすんだ金色だから、上品でありながらも控え目な印象を与える形だ。
 素早く制服に着替えたマツリカは小さいながらも設備の整った控え室内のパウダールームで髪を結い上げ、しっかりと化粧をして鏡の向こうで見つめているもうひとりの自分を睨みつける。

「……負けるものか」

 若き海運王の気まぐれで彼専属のコンシェルジュにされてしまったマツリカ。
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