アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
追想 家族輪舞(ロンド・ファミーユ)
 三年後。

 私はまだ手術を受けていない。

 技術的には可能だと診断されていたけど、それどころではなかったからだ。

 あれからすぐに子供を授かって、生まれてきたのは女の子。

 栗色の髪に茶色の瞳で、お肌はつるんとしている。

 そして、今、二人目がおなかの中にいる。

「奥様、お茶のご用意ができました」

「ありがとうございます。クロードさん」

 フランスの六月は日本と違って過ごしやすい。

 晴れた日の午後、城館のテラスでお茶をごちそうになる。

 クロードさんは日本語が上達して基本的な会話はできるようになった。

 私もフランス語はまだすらすらとは出てこないけど、相手の言っていることは聞き取れる。

 フランス語と日本語がごちゃ混ぜになるけど、どちらにしろ、もう、スマホはなくても大丈夫。

「じいじ」

「何をお召し上がりになりますか、クロエお嬢様」

 娘はよいしょと椅子に上がると勝手にマドレーヌに手を伸ばして自分で食べ始めた。

「こら、『いただきます』は?」

 マドレーヌをいったんテーブルの上にポイして手を合わせる。

「いたーきます」

 んー、素直でいいんだけど、まあ、しょうがないか。

「つわりは大丈夫?」と、ジャンが私にもマドレーヌを勧めてくれた。

「うん、今日はましなほうかな。それより血糖値が心配だからやめておく」

「何もしてあげられなくてすまないね」

「ありがとう。大丈夫。心配ないから」

 すると、半分だけでマドレーヌに飽きた娘が庭園の方へひょこひょこと遊びにいってしまった。

「ああ、もう。待ちなさい」

「わたくしが参りましょう」と、クロードさんが追いかけてくれる。

 追いかけられると分かっていると、娘もキャッキャキャッキャと大喜びで駆けていく。

「よっこいしょっと」

 おなかを抱えながら私も席を立つ。

「おいおい、座ってなよ」

「ううん。少し運動しないと。ちょっと行ってくるから待ってて」

 娘は庭園で木の幹に向かってペチペチと手を突き出して笑っている。

 お相撲さんじゃないんだから。

 と、思ったら、ドシンと尻餅をついてしまった。

「クロエお嬢様、大丈夫でございますか」

 手を差し伸べるクロードさんにつかまって立ったかと思うと、今度はズボンの裾で手を拭いてしまう。

「ああ、クロエ、だめでしょう」

「いいえ、奥様、ご心配なく」

< 114 / 116 >

この作品をシェア

pagetop