アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
第5章 泥棒猫!?
 一夜明けると、雨は上がって艶のいい青空が広がっていた。

 ベッドにジャンの姿はなかった。

 ぬくもりもない白いシーツの海に転がるとかすかに彼の匂いがする。

 思わず深く息を吸う。

 何やってるんだろ、私。

 ――誰も、見てないよね。

 うん、大丈夫。

 手早く身支度をして城館の中を歩いていたら、廊下にクロードさんがいた。

 スーツに、相変わらず結び目の素敵なネクタイ。

「ボンジュ・マダム」

「おはようございます、クロードさん」

 昨日聞いた話が頭をよぎったけど、とりあえず、知らないふりをしておくことにした。

 あ、そういえばスマホは充電してるんだったっけ。

 カタカナ英語で聞いてみた。

「ウェアイズジャン?」

「ディスウェイプリーズ」と、廊下の先へ案内される。

 応接間の少し先の部屋から機械の動く金属音がする。

「ヒア」

「アー、メルシ」

 軽く頭を下げてクロードさんはレストランの方へ去っていった。

 案内された部屋はトレーニングルームだった。

 個人用の居室といった感じで広くはないけど、一通りのマシンがそろっている。

 ジャンはベンチプレスを上げていた。

 私を見て手を止めると、汗で光る上半身を起こす。

「やあ、おはよう」

「おはよう。いつも朝からこんなに?」

「まあね」

 かたわらのタオルを取ろうとジャンが体をよじる。

 肩の後ろにぷっくりとふくらむ僧帽筋と、引き締まる背筋に目を奪われる。

 脇腹に筋肉とあばらが織りなす溝の深さに、思わず指でなぞりたくなって手を出しかける。

「ん、どうした?」

 こちらに向き直ったジャンが顔の汗を拭きながら私を見上げる。

「引き締まってるなって」

「君もどう?」

「え、私は……」

 運動なんて学生時代の体育しかしたことないし、それだって得意じゃなかったな。

 トレーニングなんて三日坊主どころか一回目だってやりきる自信がない。

「簡単だよ」

 立ち上がったジャンが肩にタオルを掛けて私の頬に口づけた。

 汗に混じって甘い香りが漂う。

 気づかれないようにそっと息を吸う。

「日課にすればどうってことない」

 言葉は甘くないのね。

 その日課にすること自体、めちゃ高いハードルなんですけど。

 こういう人は、ぽっこりお腹の矯正下着を間違って他の洗濯物と一緒に洗濯機にかけてしまったときのアラサー女子の絶望感とか、理解できないんだろうな。

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