忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜
傷に触れる
 仕事が早く終わったため、美琴は早めに家に帰宅した。

 今のところ尋人からの連絡はないが、家で食べると言っていたし、とりあえず作って待つことにする。

 キッチンに立った時、美琴のスマホが鳴る。恐る恐る確認すると、紗世からのメッセージだった。

 尋人とこういう関係なってしまったこともあり、もしあの人から連絡が来た時にどうすればいいのかわからなくなっていたのだ。

 尋人には何か連絡が来ても出るなと言われているけど、それでいいのかわからなかった。

 でももし山脇さんに真実を伝えたとして、どんな反応をされるのか考えると怖かった。

 元々忙しい人だし、頻繁に連絡がないのはありがたかった。

 とりあえず気を取り直して紗世のメッセージを読む。

『お疲れ様! なかなか連絡が来ないからしてみました。金曜日の夜って空いてる? もし良かったらまたあのバーでおしゃべりしない? お返事待ってま〜す』

 美琴は血の気が引く。連絡すると言ったのに、そのまま放置していたことを思い出した。明るい文面なのに、裏に怒っている紗世が垣間見える。

 金曜日は確か会食があると尋人が言っていたのを思い出す。美琴は慌てて返事を打つ。

『お疲れ様! 連絡が遅くなってごめんね! 金曜日大丈夫です。楽しみにしてるね』

 金曜日……あれから一週間になるんだ。いろいろなことがありすぎて、体感としてはもっと長く感じる。

 紗世に話したらきっとびっくりするだろうな。でも紗世のおかげで尋人との誤解が解けて、今こうしていられる。

 再びスマホが鳴る。こう続け様だと心臓に悪い。確認すると、今度は尋人からだった。

『これから帰ります。もう家?』

 たった一文だけど、一緒に暮らしているんだと実感する文面だった。

『お疲れ様です。家にいます。気をつけて帰ってきてね』

 なんか夫婦みたいなやり取り。すごく照れくさくて嬉しいのに、現実じゃないような気がして不安になる時もある。

 自分しかいない静かなこの部屋が急に怖くなり、美琴は慌ててテレビのスイッチを入れた。

 私って中途半端。はっきりしないのは自分自身なのに、どっちつかずな状況への苛立ちと不安で苦しくなる。

 食事の準備が終わった頃、ドアが開く音がして尋人が帰宅すると、美琴の心に安堵が広がる。

「ただいま。おっ、いい匂い」
「あっ……おかえりなさい」

 尋人は書斎にカバンと上着を置いてすぐに戻ってくる。

「先にお風呂にする?」
「いや、後でいいよ。どうせなら出来たて食べたいじゃん」
 
 さっきまであんなに不安だったのにな……。彼の笑顔を見ただけでその想いが払拭される。
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