彼と私のお伽噺
御曹司様と婚姻届

 オフィスのビルの非常階段で昴生さんからのプロポーズを正式に受け入れた私は、その日の夜に昴生さんの前で婚姻届にサインを書かされ。判を押すと、そのまま引っ張るように役所に連れて行かれた。


「焦って時間外受付で受理してもらわなくても、週末の昼間にでもゆっくり行けばよかったんじゃないですか? 私、お風呂上がりですっぴんですよ……」

 時間外受付で婚姻届を受理してもらったあと、昴生さんの隣を歩きながらブツブツと文句を言う。

 今夜は昴生さんの帰宅が遅くて、婚姻届にサインをする前に、私はお風呂も夜ご飯も先にひとりで済ませていたのだ。

 夜ご飯を済ませた昴生さんにダイニングテーブルで婚姻届にサインを書かされたあと、強引に外に連れ出された私は、上下ともに部屋着のスウェットだし、足元は裸足にサンダルだ。

 対して、帰宅してからそのまま夕飯を食べた昴生さんは、仕事用のダークグレーのスーツにちゃっかりと秋物のトレンチコートを羽織っている。

 婚姻届を受理してくれた役所の人は、「おめでとうございます」と義務的に声をかけてくれたけど……。

 落差ありまくりの私と昴生さんの格好を見て、どう思っただろう。


「せめて、着替えとお化粧する時間くらい欲しかったです……」

「暗いし誰も見てねーよ」

「そういう問題じゃありません」

 せっかくの婚姻届提出の思い出が、こんな適当な服を着てたことだっていうのが嫌なのに。昴生さんは何にもわかってない。

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