クローバー

茶番劇



それなりのスピードを出しながら、目的地を目指す。


髪が風でなびく。体が軽い。
まるで風と一体化しているような気分になる。


このまま、なにもかも忘れて、何処か遠く私の事を誰も知らない場所に行けたらどんなにいいだろうか…


馬鹿だな…私。そんな事出来るはず無いのに。


そんな事を考えているうちに、目的地に着いていた。


バイクから降りた私たちの目線の先には、もう使われていない錆びれた倉庫。


「何で文乃がここ知ってるわけ?」


奏多は目を細め疑うように私を見てくる。
そりゃそうだ。よっぽど族に詳しくない限り火蓮の倉庫の場所なんて分からない。


私はパソコンでハッキングする事ができるため容易に調べる事ができる。


しかし、奏多の前で私はただの女子高生を演じてる。尚更怪しまれるはずだ。


知られる訳にはいかない


絶対に


人差し指を奏多の唇に持っていき、耳元で甘く甘くささやく。


「ひ・み・つ」


大抵の男はこうすると、口を閉じ黙ってくれる。


奏多も私に向ける瞳の色が変わった。頬を薄ら染め、獲物を見つけた野獣のような瞳でこちらを見てくる。


「それ、どこで覚えたの?」


不機嫌そうな声色で尋ねる。


これは、情報を掴むときとっても便利。
隆二さんが初めて仕事をした時に教えてくれた。


『いいか?自分の体でも頭でも使える物はなんでも使え。まー、そうだな。お前中坊にしては色気があるから、よしっ!誘ってこい!』


今、思えば中学生になんて事教えてんだあの人。私も私でそれが当たり前だと思ってちゃんと誘いに行ったもんな。


それも、誘うの意味が分からず『私とカフェに行きませんか』とデートの誘いをしてしまった。しかも、バーで。その後、隆二さんにはボロくそ笑われるし、ターゲットには怪しまれ、もうその仕事出来なくなるし。


あれはまじで、恥ずかしかった。
なんか思い出したら腹たってきた。隆二さん今度会った時1発殴る!


「ぶ、ぶぇっくしょん!あー、風邪か?」


その頃、呑気に鼻をかんでいた隆二。のちに悲鳴をあげる事を知るよしもなかった。






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