short novel 恋愛哲学
恋愛哲学
あたしはオムライスが好きだ。
甘酸っぱいケチャップの味だとか、ふんわりした卵だとか、ふわっと香るバターの香りだとか。
好きなところを頭で考えることはできるけれど、どうして好きになったか、といわれればよくわからない。
気づいたときから好きなのだ。
気づいたときには好きだった、というのが正しいかな。
前に、子供っぽいなんていわれて、ちょっと気にして隠していたことがあったっけ。けれど、そんなこといわれたって好きなのには変わりなかった。
そんな風にあたしは彼を好きなんだ。
ケチャップでハートを描いてみた、すっかり得意料理になったオムライスにスプーンを入れた。甘酸っぱくて、ふんわりで、いいにおい。やっぱり好き。
ちょっと早めの土曜の夕食。オムライスの皿の向こう、テーブルの上に陣取る携帯電話はやっぱりならない。
彼からの着信を待つだけの、もどかしくて苦しい日々をどれくらい過ごしただろう。それでも彼だけの着信音がなった日は、可笑しいくらいに幸せを感じられた。
スプーンをおいて、あたしは携帯電話を開いてみる。受信ボックス。2日前。
『やっぱり日曜から出張になってさ。ごめん』
5日前。
『次の日曜、ちょっとあやしくなってきちゃったよ。わかったらすぐ連絡するよ』
7日前。
『ドライブかぁ、いいね!来週の日曜日なら空いてるよ』
ぱたんと携帯電話を閉じる。あたしってなにをしてるんだろう。前に会ったのはいつだったっけ。毎日着信があったのは、いつまでのことだったっけ。
彼の気持ちが離れていっているのは、なんとなくわかる。それでもあたしは着信を待っている。もしかしたら、まだ、と。
だって彼を嫌いになる理由がない。どうして好きになったか、わからないけれど、好きになってしまったものは好きなのだ。
あたしは気を取り直してもうひとくち、オムライスを口にしてみる。
そういえば昔、ビーフシチューがたまらなく好きだったっけ。いまはあの時ほどではないけれど、やっぱりほかよりちょっと好き。好きなのは確かで、そして前ほど情熱がない。
あたしはいつかこの恋をそっとしまって、そんな風に彼を想うのだろうか。

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