天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~


 セーヌ川に架かる橋の上でぼんやりと水面を見下ろしていると、背中をどんと押されるような衝撃を感じた。


 体が前によろけ、思わず短い悲鳴をもらす。

 驚いて振り向くと、走り去る金髪の男の人が見えた。
 どうやらあの人が私にぶつかったようだ。

 謝りもせずに走り去るなんてひどい。

 彼の後ろ姿を見ながら心の中で文句を言う。
 そのとき「あれ」と気が付いた。彼の手には見覚えのあるバッグがあった。

「うそ!」

 慌てて自分の手元を見る。
 さっきまで肩にかけていた小ぶりのバッグがなくなっていた。

 あの中にはお財布やスマホが入っているのに!

「それ、私のバッグ……っ!」

 ひったくりだと気づいて声を上げる。
 けれど周りの人たちはきょとんとした顔で私を眺めるだけだった。

 それもそうだ。
 ここはフランスで、日本語が通じるわけがない。


< 6 / 238 >

この作品をシェア

pagetop