【短編】夢祭りの恋物語
 あの日の出来事は本当に夢だったのか。高校三年生の夏、受験勉強をしていた八代司は去年の出来事を思い出していた。

 一生に一度あるかないかの不思議な体験。あれは本当に夢であったのだろうか。司は引き出しに大切にしまってある箱を取り出さていた。

 そして、その箱を開け中身を手に取ったのだ。だってこれは────。

 高校二年生の時、司はテニス部に所属していた。優しい目付きで身長も高かった為、女子受けが良かったのだ。そんな司は夏休みに入ると、実家の八代神社に帰省していた。

 電車を何本も乗り継ぎ、高校の寮から三時間掛けて実家がある最寄り駅に到着した。周囲は畑が広がっており、コンビニや娯楽施設は一切なかったのだ。

 駅の改札を出た司は、重い荷物を背負いながら実家へと向かっていった。

 その頃八代神社では夏祭りの準備に追われていた。大勢の人が神社の境内で作業をしている。テントを張る人、屋台を準備する人、ネオンを取り付ける人と役割は様々であった。

「おや、司君今帰ったのかい? ちょうど良かった、荷物置いたら祭りの準備手伝ってくれねーかな?」
「お久しぶりです、中山のおじさん。荷物を置いたらすぐに行きますね」
「おう、疲れてるとこ悪いけど、頼むよ司君」

 中山のおじさんに挨拶を終えると、司は本殿横にある実家へと歩き出した。司が神社の跡取りということもあり、すれ違う人達に挨拶をされる。司は一人ずつ丁寧に挨拶を返しながら、境内を進んで行ったのだ。

「ただいま〜、父さん、帰ってきたよ〜」
「やっと戻ったか司、おかえり。帰ってきて早々悪いんだが・・・・・・」
「お祭りの準備でしょ? 荷物置いたら手伝いに行くよ」
「助かるよ、最近若い人が減ってきて、準備もひと苦労なんだ」

 父親に軽く挨拶を済ませると、司は自分の部屋へ荷物を置きにいく。部屋に入ると懐かしいイグサの匂いが司の鼻を掠める。

 その匂いを大きく吸い込み実家に帰ってきたと実感したのであった。司は疲れていたが、中山のおじさんとの約束があるので、荷物を放り投げると足早に手伝いへと出向いたのだ。
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