灰に汚れた六月に、世界を
六月二十九日の夜。誰もが寝静まった深夜二時。梅雨明けの風はどこか蒸し暑い。

黒く腰まである髪を揺らし、巫女の衣装を着た女性が夜の街を歩いていた。その顔は整っており世間一般から見て美人と言える顔だが、ぱっちりとした二重の目は非常に冷たく、感情を読み取れない。

彼女は深夜だと言うのに、寂れた廃屋に躊躇うことなく入っていく。ボロボロになったドアを開けると、「桐子、いよいよ明日だな」と陽気な声をかけられる。

女性ーーー蘆屋桐子(あしやとうこ)が声のした方を見ると、全身が黒い毛で覆われ、赤い目をギラつかせた人間とは言えない姿の何者かが立っている。その黒い者の横にはツギハギだらけの姿の者や、ライオンやサメなど様々な動物が混ざった見た目の者などがいる。全員、人間ではない。

「ああ」

桐子は頷き、夜空に浮かぶ満月を見つめる。街は桐子の目には汚れて見えるが、夜の空だけは美しく見えるのだ。

「明日で全て終わるといいんだが……」
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