エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
8

神崎さんとの約束から一週間が経った。それなのに、全然京子さんに探りを入れられていない。
京子さんの仕事が朝から晩まで忙しく、朔同様に深夜帰りが続いている。神崎さんも忙しそうだから、せっつかれているわけではないけど、私の心情的に任されたことを長く放置していると心の隅がもぞもぞとして落ち着かない。
今日は訊けるかなぁ。
そう思いながら社長室をチラ見すると、京子さんは電話をしている。パソコンを見ながら、忙しそうだ。
視線を外して元に戻す途中でオフィスに入ってくる神崎さんとちょうど目が合う。にこりと微笑まれて、びくっと肩が震える。なんとなく「よろしくね」という圧力を感じたのは気のせいではない気がする。
「はぁ、どうにかしないと……」
「前田さん、ちょっと」
「は、はい!」
外行きの顔で京子さんが社長室から出てきて私を呼ぶ。何事かとすぐさま社長室へと走っていく。
「今から出かけるんけど、ついてきてくれる?」
「え、私がですか?」
「そう、社会見学だと思って」
京子さんはコートを羽織り、バッグを手にさっさとオフィスを出ていくから、私は慌てて自分のコートと荷物を傍に抱えて追いかけた。
会社の前でタクシーを捕まえて乗り込む。向かう先は銀座だ。
「うちの日本の初店舗が今日からなの。進捗は聞いてるけど、ちょっと様子見に行こうと思って」
「あ、あの、私なんかが帯同しても……」
「何言ってるの。あなたも携わっている仕事よ。それに、直にどういうものか目に触れておくのもいいと思うの」
< 90 / 107 >

この作品をシェア

pagetop