黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜

八重樫君の悪巧み

私は寝坊した。

八重樫君の意味不明な行動に頭を悩まされ、結局昨日も遅くまで寝ることができず、やっと仮眠が出来たと思ったら仮眠では済んでいなかった。

アラームは無意識のうちに止めていたようで起きた時にはすでにいつもなら家を出る時間になっていた。

急いで家を出たが、これでは始業時刻ギリギリだ。

沢山の人が乗り込むエレベーターに何とか飛び乗ると誰かの手が私に絡んできた。

えっと、彼女さんと間違えているのかな。

満員のエレベーターは動きづらいと思いながら他の人の迷惑にならないように手を離したが、離れたと思った手は再び私の手を掴む。

ちょっと待ってよと思いながらそっと斜め上を見る。

八重樫君!
君は朝らか何をしているのですか。

しかも無表情で私と目を合わせようともしない。

それなら何故手を掴むのですか?

エレベーターが止まり、人々が降りようとすると、八重樫君は私の腰に手を伸ばし、押し出されないように引き寄せてくれた。

八重樫君の鼓動が聞こえてきそうな距離に私の心臓は鼓動を早め、周りの音まで奪っていく。

「あの、もうそろそろ離れてくれますか?」

ようやく聞こえてきた音は私の耳元で囁く八重樫君の声だった。

いつの間にか八重樫君の手も私の腰から離れており、周りを見ると、私が八重樫君にくっついているようにしか見えない無駄な空間ができているではないか。

やられた……。

残り少ない乗客が不思議そうな目でチラチラ見てくる。

違うんです、違うんですよ皆様。
さっきまでこの人が私を捕まえていたんです。

でも、そんな事は誰も信じてくれそうにないので大人しく下を向いて空いたスペースに移動した。

幸い、エレベーターには知り合いはおらず変な噂は立たなかった。

そしてエレベーターの一件以来、数日経ったが八重樫君は何もしてこない。

いや、何もしてこないことが当たり前なのです。ここは職場ですからね。
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