黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜

黒子ちゃんのライバル

月曜日出社すると部長は既にデスクに座って仕事をしていた。
いつも一番乗りは私だったが、部長がこの部署に配属されてからは一番になったことはない。

いつものように「おはようございます」と挨拶を交わし私達はそれぞれの仕事に集中した。
もちろん挨拶から話が広がることなんて一度もない。

メールボックスを開くと部長からみんなに宛てた歓迎会のお礼メッセージが届いていた。
こういう所もやり手である所以なのかもしれない。
私は簡潔に可も不可もない内容でお礼の返事を送信した。

「二条君、わざわざ返信ありがとう。今は2人なんだし口頭でも良かったんだがな」

笑っている部長に合わせて私も微笑んだ。

歓迎会でも思ったが、部長は笑うと顔の皺が出てきて歳を感じさせる。
悪い意味ではなく、枯れ専には堪らないあの皺だ。

「おはようございます」

駒田君が珍しく早く出社してきた。

今日は槍でも降るのか?

「おはよう駒田君」

部長はいつもの調子で駒田君に挨拶をした。

この時私は、駒田君のせいで本当に槍が降ることになるなんて思ってもいなかった。

数日後、お昼から戻ると部長は何やら神妙な面持ちでパソコンの画面を睨んでいた。

私は特に気にも留めずに席についたが、すぐ後に戻ってきた駒田君が部長に話しかけた。

「部長、そんな怖い顔してどうしたんですか?」

駒田君は部長の歓迎会以来、何故か部長に馴れ馴れしい。
仕事の時は厳しい部長も昼休みなどの時間は駒田君に優しい。

「それが、娘が水族館に行きたいって言うんだが何処がいいのかさっぱりで」

「それならオススメの水族館がありますよ。ここなんてどうですか?」と駒田君はスマホの画面を操作して何やらおすすめの水族館を見せているようだ。

「おお、確かに良さそうだな。行ったことあるのか?」

「はい。意外と水族館好きなんですよ」

「そうか。それなら今度の土曜日に一緒に行かないか? 娘も喜ぶと思うし」

「あーそれはいいっす。あ、二条さん連れて行ってあげたらどうですか? どうせ土日暇そうだし、ほらそのペンってこの水族館のですよね?」と駒田君は私のペン立てに入っているペンギンの絵が描かれたペンを指さした。

勝手に暇人扱いをして連れて行ってあげたらという上から目線って何ですか?

「このペンは頂き物で私は行ったことがないので」と体よく断ってみたものの部長には通じていないようだった。

「おぉ、それなら一緒に行ってみないか? 実は娘と2人で水族館では時間が持つか心配で、駒田君でも二条君でもいてくれると助かるのだが。もちろんお礼はするから」

そして何故か、駒田君は私に向かってウィンクしてきた。

「えっと……」

どうやって断ろうか思案していると、お昼に行っていた女性社員達が一斉に戻ってきて断るタイミングを失った。

これは八重樫君に相談しようと思いつつ、仕事に追われ、相談できたのは家に帰ってからだった。

「何で俺の時みたいに予定があるってすぐに断らないの?」

確かにそう言えば良かったが、あの時は予定がなかったので平然と嘘をつけたが、今の私は毎週土曜日八重樫君と映画を観るという勝手な予定を入れているので予定を聞かれたらボロが出そうで言えなかった。
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