黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜

八重樫君の真相

あれから数日が経ち、何やら周りの様子がおかしいことに気がついた。
私と部長が話していたり、一緒に会議室から帰ってきたりした時の女子の目がなんだか冷たい。

何かある。

「二条さん、そう言えばこの前どうでした?」

部長が外出中に駒田君がみんなに聞こえる声で話しかけてきた。

「この前って何のことですか?」

「ほらデートの約束取り付けてあげたじゃないですか」

いや、取り付けられてないし、あれはデートではないし、そもそもあれは駒田君が部長とは一緒に行きたくなくて私に振ってきただけじゃ……あれ? もしかして駒田君、みんなに言いましたか?

「デートではありません」

「デートでしょ。二条さんと部長がいい感じだからチャンス与えてあげたんですよ」

こういうのが要らぬお節介と言うものだ。

「デートではありませんし、部長とは何もありません」

「えーそんなぁ。月曜から2人仲良いじゃないですか。いい事あったんですよね」

そういう目で見ているからそう見えるだけでしょと言いたいところだが、駒田君は納得しそうにもないので心の中に留めておく。

「何もありません。そんなことよりこの前依頼していた資料できましたか?」

「あ、そう言えばお客さんに電話しなきゃ」

見え透いた嘘を。

自分が都合のいいときだけ忙しい振りをする。なんてずる賢い子なんだ。
駒田君の質問攻めは回避したものの、いつもうるさい女性社員は信じられないくらい沈黙を貫いている。

完全に疑われている。しかも私は部長と出かけたことをみんなの前で認めてしまった。

最悪だ。

唯一の救いは八重樫君が全てを知っていること。
人の噂なんてそんなに長くは続かない。とりあえず黙秘を続ける事にした。

だが、周りが噂も忘れかけていた頃に部長がやらかしてくれた。

ある日、私が出社すると部長は神妙な面持ちで私を会議室に呼んだ。まだ誰も来ていないオフィスでわざわざ会議室に呼ぶのは不思議だなと思いながらも言われるがままにノートとペンを持って会議室に移動した。

こんな時期に異動はないだろうが、もしかしてリストラ候補?

「朝からすまんね。実は、娘がまたみんなで遊びたいと言ってるんだけどどうかな? 二条さんが良ければ八重樫君にも声をかけようと思ってるんだが……」

星羅ちゃんはあの日眠っていたので八重樫君にさよならを言えていない。

私達は気遣いで寝かせたままにしていたのだが、あの後目覚めた星羅ちゃんは何故起こしてくれなかったのかと泣いていたと八重樫君経由で聞いていた。

そんな星羅ちゃんのお願いなら仕方がない。

「八重樫君も一緒であれば、私も行きます」

「そうか! そうか。ありがとう」

そう言うと部長は私の肩を掴むとそのまま抱きしめてきた。

え? これは何でしょうか……。

今いる会議室は磨りガラスだ。

誰がいるかは分からないにしてもシルエットで状況は分かってしまう。

「あの、部長……」

「あ、すまん。その娘が喜ぶと思うとなんだか嬉しくなってな」

それでもこれはセクハラと訴えられたら負けるやつですよ、部長。
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