御曹司社長はイケメンで甘すぎです。
もう一度モルディブへ
…青い空…力強い太陽…遠くまでキラキラと光る海…
そう、ここは颯真さんと初めて出会ったモルディブのホテルだ。
私は今、このホテルに長期の滞在をしている。
ここに来て、もう一か月。
だいぶここでの生活に慣れてきたようだ。
このホテルには、男女1名ずつ日本人のスタッフが勤務していた。
最近では、この二人とプライベートでもよく話をするようになっている。
今日は二人とも早番で仕事が終わるため、夕食を一緒にしようと、海の見えるシーフードレストランで待ち合わせだ。
このレストランはオーナーが漁師で、新鮮な魚介がリーズナブルな値段で食べられる。
地元の人達にも人気のレストランだ。
もちろん目の前は海、波の音が心地よい。
早めにレストランに着いた私は、一番海に近いオープンテラスに座った。
夕日に染まる海からの風が頬にあたり、最高に気持ち良い。
暫くすると、待ち合わせの二人がやって来た。
二人は入り口から手を振って近づいてくる。
さらさらの髪と、大きな瞳が印象的な女性は、泉 瀬里奈(いずみ せりな)私と同じ歳の27才だ。
そして、真っ黒に日焼けした、体育会系のこの男性は、山吹 卓(やまぶき すぐる)私達より2つ年上の30才。
実はこの二人、職場では内緒にしているが、恋人同士なのだ。
「結愛、遅くなってごめんね。」
先に声を掛けたのは、瀬里奈だ。
私達はホテルの外では名前で呼び合うことにしている。
「瀬里奈、卓、忙しいのに付き合わせてごめんね。」
私達は、魚料理にも合う、少し辛口の白ワインで乾杯をする。
「今日もお疲れ~乾杯!」
ワイングラスを持ち上げて、卓が明るく乾杯の声を上げる。
ココナツや果物をたっぷり使った、モルディブらしい料理が並んでいる。
中でも、私がお気に入りなのは、ガルディヤと呼ばれる魚をベースにしたスープだ。
スープの中に、カツオなどの魚が入っていて絶品だ。
スープを口に頬張り、今日も口角を上げる。
「結愛、もうだいぶモルディブにも馴染んできたね。」
瀬里奈は、美味しそうに料理を食べる私を見て笑顔を見せた。
「うん、瀬里奈と卓のお陰で、だいぶ元気になってきたよ。ありがとう。」
「そうだよなぁ、結愛に最初に会った時は、驚くほど落ち込んでいて、理由は知らないけど、瀬里奈と声を掛けようかと相談したくらいだったよなぁ」
「そうそう…今にも倒れそうな真っ青な顔してたしね。」
このモルディブに到着したときは、辛くてどうしようもない時だった。
私は藤堂麗美から、どこかに消えるようにと言われ、ふらふらとたどり着いたのが、このモルディブだ。
麗美の言う通り、両親以外には誰にも伝えずに、このモルディブに来たのだ。
もちろん、両親にも場所は言っていない。長期の海外勤務と言ってある。
心配されないように、母には定期的に連絡している。
自分でも、どうしてこのモルディブに来たのか分からない。
ただ、颯真さんに初めて出会ったこの場所は、私にとって大切な場所なのだ。
瀬里奈と卓は、さすがホテルマンだと思う。
一緒に遊ぶようになっても、私のプライベートを、決して探ることは無い。
その関係が、心地よかった。