「私のどこが、好きなんだろう」

 八月十八日、水曜日。夏休みの宿題を携えお邪魔した千絵の家。ペンを口先に乗っけながら、ふと呟く。千絵はファッション雑誌を捲って言った。

「なんの話?優也くん?」
「うん、そう」
「優也くんやっと真莉に告白したんだ。もちろん、オッケーしたんでしょ?」
「してないよ」
「え、なんで」

 雑誌を閉じる千絵。

「映画も祭りも仲良しこよしで行ったのに?それでオッケーしない理由ってなに」

 口先からぽろっとペンを落とす。コロコロ転がるそのペンは、麦茶のグラスにあたって止まった。

「好きかどうか、分かんないから」
「それでも付き合ってみればいいのに。付き合っていくうちに好きになっていくかもしれないし」
「私はそういうタイプじゃないのー」

 本当はあなたの彼氏である真人くんが好きだったのかもしれないんです、今でも心のどっかにいるんです。とは言えない。

 千絵は、ふうんとそっけない素振りをして、ベッドのフレームに背を預けた。

「真人くんは、私のこと好きじゃないけどオッケーしてくれたよ」

 真顔の彼女からは、感情が読み取れない。私は口を大きく開ける。

「は?」
「まだ好きになれるか分からないけど、俺でよければって。そしてたぶん、今も私のことなんか好きじゃない」

 淡々と話す千絵に反して、私だけが狼狽える。

「それでも、千絵はいいの……?」
「少し辛いような、辛くないような」
「どっち」
「あとそういえば」
「え?」

 千絵は雑誌を(ひら)く。広告のページ。いつもは飛ばすページ。

「真人くんって施設の子なんだって。ちょっとびっくりしちゃった」