土曜日。場所はケーキ屋のカフェスペース。父と会うのは小学三年生の両親の離婚以来、七年ぶりだ。
待ち合わせ時間より幾らか早めについた私は、窓際の席で待っていた。ここからならエントランスが見えるから、父の入店に気付くだろうと、そう思って。
「真莉か?」
早く会いたいじれったさからくるのか緊張なのか。そわそわドキドキ落ち着かずにいたら、背後から懐かしい声がした。
驚き、振り向く。
「お、お父さんっ」
そこには七年前の記憶よりも少し痩せていて、黒というより白髪の混ざった銀色に近い頭髪をした父がいた。
「ははっ。ずいぶんと綺麗なお姉さんになってるもんだから、店内をぐるっと一周しちまったよ。久しぶりだなあ」
目尻にたっぷり刻まれた皺が、笑顔と共に深くなる。
ああ、だけど昔と変わらない、私とおんなじ目元。
父はチョコレートムース、私はショートケーキをオーダーした。ホットコーヒーも頼んだ私に父は目を丸くし、「コーヒーなんか飲む歳になったのか」と言った。
「お父さん、今日は仕事休んでくれたの?」
「いいや、父さんの会社は夜勤もあるから、今日は夜勤明け」
「あ、なるほど」
トラックドライバーである父は、一緒に住んでいた頃も昼夜問わずに仕事が入っていた。土日もそんなに関係なくて、カレンダーの数字が赤い日でも、母と二人きりのことがあった。
だから私は、余計に父と過ごせる時間が貴重に思えたのかもしれない。家族三人で出掛けられる日は月に一回二回あるかどうか。私の運動会は見られないのがあたり前、見に来られたらラッキー。
私が起きているうちに仕事から帰ってくれば就寝するまで全力で遊んでくれて、仕上げの歯磨きだってしてくれた。
母と喧嘩をする姿なんて一度も見たことがない。それはまだ小さい私に、両親が配慮してくれたのだろう。
でもだからこそ、予想がつかない。
一体何故、どうして二人が別れることになったのか。