テスト最終日。本日最後の終業チャイムと同時に、教室は歓喜に沸く。

「終わったー!終わった終わった終わった〜!」

 両手を合わせて千絵とジャンプ。結果がどうであれ、ひとまずははしゃいでおこう。

「あとはテッキトーに授業受けてれば、もう夏休みだね、真莉!」
「どこ行くどこ行く?」
「とにかく水着ゲットしなくちゃ!」
「ああ、そうだった!」

 気分は高揚、上がるテンション。夏は夏っていうだけで、底知れぬパワーを持っている。


 浮き浮きしながらの帰り道。千絵はカラカラと私の隣で自転車を引く。

「今日はお姉ちゃんと先月できたばっかのアパレルショップに行く約束してるんだー。テスト頑張ったご褒美に、なんか買ってもらう予定っ」

 きらり、と白い歯を見せて言う。

「千絵ってほんと、お姉ちゃんと仲良いよね」
「うん、仲良いよー。すごい優しいし。来年は女二人で韓国旅行に行こうって予定も立ててくれてる」
「ふぅーん」

 千絵にとってその姉は、産まれた時から一緒に住んでいる本当の家族なのだろうけれど、姉からしてみれば、千絵は後から家族にやって来た『父親の異なる妹』だ。千絵の姉はどうやって母の再婚相手と、千絵を受け入れられたのだろう。

 焼肉だの韓流アイドルだのの単語があがったかと思ったら、千絵は突然、その話をピタリと止めて、そういえば、と含み笑い。

「私、真人くんと付き合うことになったの」

 その発言は、ひゅうっと肺まで一気に侵入。私を水槽から掬い上げられた金魚みたいに呼吸困難に陥らせて、目を見開かせる。

「え、真人くんと……?」
「うんっ」

 信じ難かった。だって、真人くんには好きな人がいて、今でもその人を忘れられない。そのはずだ。

「なん、で……?」

 おめでとうよりも先に、口を突いて出たのはそんな疑問符。

「なんでそうなったの……?」

 これじゃあ親友って、言えないね。

 アヒルのように口角を上げた彼女は頬を桜色に染めて、誰もが愛する花になる。

「昨日、真人くんのバイト帰りに電話してて、恋愛の話になったから好きだって言ってみたの。そしたらオッケーしてくれた」
「そう、なんだ……」

 引きつる笑顔を必死で(ほぐ)して、大きな唾を飲み込んで。

「千絵、おめでとう」

 人間味のあるおめでとうが、言えたはず。きっと。