偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

3. 偽りの契約婚


 響一に引きずられるようにしてやってきた高級鉄板焼き店『炭恋』は、それはもう何を食べても頬が落ちそうなほど美食の数々だった。

 珍しい品種のナスやアスパラやズッキーニは彩り豊かで驚くほど新鮮、エビやイカやホタテはどれもぷりぷりと歯ごたえが良い、鮭や鰹も少し炙っただけの状態で食べても臭みがまったく感じられない。

 そして何といっても、高級な牛肉はあかりの想像をはるかに超える美味しさだった。どの部位を食べても、歯に触れただけでとろけて無くなったと思うほどにやわらかい。特にサーロインなんて、じゅわりと染み出す肉汁と、甘くて良質な脂と、しっかりとした肉感に最高以外の言葉が出てこない。

 あまりの美味しさにそのまま昇天してしまうのではないかと思うほど。筆舌に尽くしがたいほどの美味、とはこういう事なのだろう。

 しかも食事を終えると、彼がおすすめだというワインまで出てくる。明日も仕事なのであまりたくさん飲むわけにはいかないが、食事やデザートに合うよう計算されたワインも上品な味わいで驚くほど美味だった。

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