突然イリヤホテルグループの御曹司と結婚することになったと言えば、両親には猛反対されるか、反対まではされなくとも驚いて不安にさせてしまうだろうと思っていた。血圧が高めの父は倒れ、心配性の母は夜も眠れなくなってしまうかも、と懸念していた。

 だが予想に反し二人は大手を振っての快諾。これまでの心配はなんだったのかと思うほど容易に受け入れられ、あかりはただただ拍子抜けだった。

 あっさりと結婚を許してくれた両親だったが、後から考えれば納得できる部分も多かった。

 ド田舎の実家まで挨拶にやってきたのは、見るからに上流階級の風格が漂う美貌の青年。さらさらで艶のあるエボニーの髪を後ろにゆるく流し、ハイブランドのスーツと革靴を見事に着こなして、相手に好感度を与える人の良さそうな笑みを絶やさない。

 手土産は小洒落たスイーツではなく、都内のどこでも手に入るが、都内じゃなければ手に入らない定番の焼き菓子。お取り寄せという発想もない両親には、流行の最旬スイーツよりも『東京』の文字が入った量産型の土産の方が喜ばれる。

 理由はご近所に自慢できるから。響一もそんな田舎者丸出しの心理を見抜いていたのだろう。

 そこに彼の肩書きが入った名刺に加えてイリヤホテルグループの宿泊優待券を添えれば『娘さんを私に下さい』の台詞が嘘っぱちでもまったくの無問題だ。

 揃って頭を下げた両親のつむじを見て、あかりは嬉しいような不満のような微妙な気持ちになった。