ズルい男に愛されたら、契約結婚が始まりました


タイミング悪く、友哉がカイロ支社に戻った翌年に、中東や北アフリカの各国で民主化を求めての運動が活発になった。
『アラブの春』と呼ばれる大規模な騒乱が起こったのだ。

友哉にはカイロ支社長としての責任があったから、そのまま身動きが取れなくなった。

カイロ中心部は荒れて悲惨な状況だし、占拠されたタハリール広場に比較的近かった支社も影響を受けていた。

長期政権が崩壊したエジプトや近隣諸国の情勢を考えなければならず、友哉はすぐに帰国出来なくなってしまった。
亡くなった航大の子どもについては気にはなったが、放置してしまったのだ。



***



友哉が帰国したことを聞きつけて、真っ先に面会に来たのは三上だった。

「やっと帰ってきた!」
「三上、久しぶりだな」

白石商事の役員応接で、ふたりはがっちり抱き合った。
もしも航大のように突然会えなくなってしまたらと思うと、元気で再会出来たのはなにより嬉しかった。

「ケガとか病気はしてないか?」

三上がパンパンと友哉の身体のあちこちを叩く。

「ああ、元気だ。しかし、こっそり帰って来たのに情報が早いな」

帰国した友哉は、これからは白石商事の海外事業部で働くことになっている。

「そりゃあ色々あったから、友哉の帰国を待ち望んでいたんだよ」

「色々? なにがあったんだ?」
「ここじゃあ話せない。あとでうちへ寄ってくれ」

三上の含みのある言葉が気になったが、友哉は社内の挨拶回りをすませると三上の住むマンションへ向かった。




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