ズルい男に愛されたら、契約結婚が始まりました
「真理恵さんがご挨拶もせず、申し訳ありません。白石商事の顧問弁護士の三上仁と申します」
瑠佳に名刺を差し出しながら、三上が真理恵のぶんまで詫びてくれた。
「あの、藤本瑠佳と申します。この子が祥太です」
「ずっとあなたと祥太君を探していたんですが、まさか友哉が先に見つけるとは思いもしませんでした」
「私たちを探していたんですか?」
「はい。航大の遺言でしたから。それに加奈さんがお亡くなりになったと聞いて焦りました」
「そうでしたか」
瑠佳は友哉から航大が亡くなってから出会うまでの詳しい経緯を聞いていなかった。
だが、緊張していた瑠佳は『航大の遺言』という言葉をサラリと聞き流してしまった。
瑠佳が三上と話している間に、もう友哉は祥太を先週と同じ電車のおもちゃに誘っていた。
真理恵も嬉しそうに祥太に張り付いている。
「すみません。彼女、お兄さんの子供に会えるのが嬉しくて嬉しくてこのところ舞い上がっていまして」
「いえ、可愛がっていただけて嬉しいです」
「そう言ってくださって安心しました。真理恵さんは中学の頃に佳奈さんと友だちだったので、特に祥太君への思いが深いんです」
真理恵の泣いたり笑ったりしている顔を見ていたら、祥太へのまっすぐな愛情が伝わってくる。
「友哉と私たちはあなたの味方です」
「味方?」
この場に似合わない言葉だった。
「あなたたちを引き離すような真似はさせません」
「白石さんもそんなふうにおっしゃってましたが、そんなに航大さんのお母様は祥太を引き取りたいって言われているんですか?」
「それはもう……白石家の女帝ですから、欲しいものはなんでも手に入れてきた人です。誰も逆らえません」