私は今日も、虚構(キミ)に叶わぬ恋をする。
エピローグ
「……それで、結局断っちゃったの?」


数日後。

陽菜は初めて、私の部屋に遊びに来た。

優星くんとの交際が嘘だったこと、告白されたけど断ったことを話すと、陽菜は驚いた顔をしつつも、納得してくれた。


「ま、仕方ないね。深月には、好きな人がいるんだもんね。
なんて言ったっけ? 『エレアル』とかいう漫画の────」

「焔烈華。ついでに言うと、『エレアル』は『エレメンタ+アルケミカ』の略」

「そうそう。その《烈華様》とやらに、夢中なんだもんね。
この部屋見ただけで、よーくその愛は伝わってくるよ」


部屋中に並べられた烈華様グッズを、陽菜がぐるりと見回した。


「すごいよね、この部屋。
深月の部屋がこんな面白いことになってるって知ってたら、もっと早く遊びに来てたのに」

「……引かないの?」


私が恐る恐る尋ねると、陽菜は『あー……』とちょっと悩んだ様子で、


「驚きはしたよ? 深月にこんな趣味があるなんて。
でも、どちらかって言うと、ずっと隠されてたことの方が、あたしはショックだったかな。

……あたし、アニメとか漫画とか興味ないからさ。
知らず知らずのうちに変なこと言ってて、深月のこと傷つけてたらどうしようって。
ここ数日はずっと、そんなこと考えてた」

「そんなことないよ! 全然!」

「でも、ほら、宝城先輩と揉めたときさ、あたし結構、深月に失礼なこと言っちゃったし」

「陽菜が庇ってくれて、本当に嬉しかったんだよ?
傷ついたなんてこと、ないから。本当に!」

「……なら、いいんだけど」

「本当にごめんね。私、ずっと陽菜に、隠し事してた」


私は深々と頭を下げたが、


「ううん。……ていうかさ、ごめん。
謝らなきゃいけないのは、あたしの方なんだよね」

と、陽菜は、いつもは見せない弱気な様子で言った。
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