私は今日も、虚構(キミ)に叶わぬ恋をする。
片想い相手は2次元です
話は3日前、2学期初日の朝に遡る。

夏休み明けの教室は、その話題で持ちきりだった。


「ねぇ! 今日来る転校生、すっごいイケメンらしいよ!」


私の前の席に座るのは、親友の陽菜(ひな)
笑顔で振り返ると、顎の高さで二つ結びにした、名前通り明るい色をした陽菜の茶髪が揺れた。


「そうなんだ〜」

「そうなんだ〜……って、楽しみじゃないの深月!?
イケメンだよ! 季節外れの転校生だよ!?」
 
「どんな人かなぁ、普通にクラスメイトとして仲良くできたらいいなぁ、とは思うけど。
イケメンとか関係なしに」

「出た! 深月の草食系女子発言!」


陽菜はびしっ、と漫画のワンシーンみたいに私の顔を指差した。


「深月って、全然恋バナしないし、イケメンにも興味ないじゃん!

可愛い上に成績優秀、運動も歌も絵もなんでもできて、先生からも気に入られてる万能ちゃんなのにもったいない!

かっこいい先輩や同級生にしょっちゅう告白されてるのに、全部断るし!

なんで!? 
まさか、私に黙って実は彼氏持ち!?超年上とかドロドロ不倫系とか!?
それなら親友として全力で止めるんだけど!」

「いやいや、いないから彼氏なんて!!」

「ほんとぉ?」

「ほんとほんと」


疑わしげに向けられたジト目を、笑顔でかわす。


(……彼氏がいないのは本当だけど、)


好きな人はいるよ。
……とは言えなかった。


なぜなら、私の好きな人はこの世に存在しない───漫画のキャラクターだから。

私は中1の時から、高2になった現在まで5年間、ずっと《彼》に片思いしている。

そのことは、親友である陽菜にすら言えない、私のトップシークレットだった。
< 2 / 165 >

この作品をシェア

pagetop