8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
公爵令嬢と謎の影
 指定された客室に行くと、エリオットが優雅にお茶を飲んでいた。

「あ、来たね。姉上」

 護衛のローランドは、エリオットのうしろに立ちながらなぜだか気まずそうな顔をしている。

「姉上は大丈夫だった?」
「いまいち現状が把握できていないんだけど、とりあえず?」
「国王様のほうは、ホワイティが薬を与えてくれたから、もう大丈夫だと思うよ?」
「そう。ありがとう。……エリオット、ずいぶん落ち着いているのね?」

 離れたときはもっと少年感が強かった。気が優しくてすぐに泣いてしまうところがあって、心配になったものだったけれど、今や堂々としたものだ。その変化にフィオナはなかなかついていけない。

「僕、もう十七歳だよ。王家を継ぐものとして、そこそこの度胸は必要でしょう」
「エリ」

 小走りに、オリバーがエリオットに近づいてくる。彼はにこやかに微笑み、オリバーを抱き上げた。

「それに、僕も甥っ子がかわいいからね。あんな風に言われて、黙っていられるもんか」

 弟の意外な男らしさを見て、フィオナは驚きつつもほっとした。ブライト王国のことは、きっとエリオットに任せておけば大丈夫なのだ。心の底からそう思えるくらいには。

「ところで、ジャネット様は?」
「隣室にいるよ。貴婦人の寝室に男がいるわけにいかないでしょう。だから僕たちはここで待機していたんだ」
「お倒れになったのはどうして?」
「ホワイティが香水の匂いをすべて浄化しようとしたときに、巻き込まれたというか。あの人、あの香水に完全につかりきっていたというか」
「ジャネットは、領土で香水の香りの配合を一手に任されていたそうだぞ」
「ああ。それでですね。なんだか、……かわいそうなくらい頑なですものね」

 意外な感想だ。ある意味部外者であるエリオットには、そんな風に見えていたのか。

「詳しいことはよくわかりませんが、ジャネット様はおそらく、花の精霊に気に入られているのではないでしょうか。だから彼女が花を扱えば、香りも効能も強く出る。オズボーン王国は、聖獣も精霊も信じておられない。だから、自覚さえないのだろうと思います。その状態で、たまたま、興奮作用がある花に手を出してしまったことで、自分自身も、負の感情にとらわれてしまったのだと思います。僕は先ほど、一瞬だけですが彼女のうしろに男の影を見ました。その影が彼女を守ろうとしていたのも」
「それ……!」
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