偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
「すみません、失礼します」
一人置いて行かれた格好になった花見先生も、頭を下げて処置室を出ようとする。

彼女の姿が見えなくなった瞬間、俺も駆け出した。



「花見先生、ちょっと待って」
ちょうど待合に出たところで追いつき腕をとった。

「杉原先生」
今にもこぼれそうなほど涙をためて俺を見る花見先生。

「泣くな、患者さんの前だぞ」

この状況で泣くななんてひどいことを言っているんだろうな。
それでも、彼女は医者で命を預かっている以上絶対に泣くことはできない。

「すみません、大丈夫です」
奥歯をギリッと噛み締める音がしてから顔を上げた。

偉いぞ、よく耐えた。
この根性があればまだやれる。

「じゃあ、戻ろうか」
「でも」
「大丈夫、俺が付くから」

独断でおじさんを巻き込んだからには最後まで見届ける義務がある。
このままじゃ花見先生も仕事にならないだろうし、人でも足りないみたいだから、俺が勤務にはいるしかないだろう。

「すみません」

深く頭を下げた彼女の肩をポンと叩いて、俺は処置室へと戻った。
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