偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
「赤ちゃん用の寝具がないのよ。今日はこれで我慢してね」

広い和室にお布団が二組。
きっと私と敬也が来るからって用意してくださったんだろう。

「すみません」
「いいのよ」

それにしても、これはすごい。
敬が電話を入れてから2時間ほどで、ミルクやおむつや湯冷まし。赤ちゃん用の下着や着替えまでそろっている。

「着替えは環ちゃんが来た時にと思って用意しておいたものなの」

だから気にしなくていいのよと言ってくださる奥様は優しい表情。
どうやら嫌われてはいないんだと、少し気持ちが楽になった。

そう言えば環さんは副院長の友人のお嬢さんで、結婚するまでこの家に住んでいたって聞いた。
そうか、だから赤ちゃん用のグッズがそろっているんだ。

「さあ、疲れが出るといけないから休ませてあげましょう」

部屋の入口で立ち尽くす私から敬也を抱き上げて幸せそうに頬を寄せる奥様。

「ありがとうございます」
それ以外の言葉か見つからず、私はただ深く頭を下げた。
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