朝、騒がしい三年A組の教室に一回目のチャイムが響き渡る。

ちょうど教室に着いたばかりの山吹桃子は、チャイムを聞くや否やそそくさと自分の席に着いた。

教室の窓から数えて三列目、黒板のある前から数えて二番目のその場所が、今の桃子の居場所である。

「す~わ~れ~!!」

チャイムが鳴り終わる頃、大きな体をゆさゆさ揺らして入ってきたのは、このクラスの担任である坂本先生だ。

「お前ら、座れ!読書の時間だ!ほら、席につけ!本を出せ!」

桃子が通う中学校では、朝のホームルームが始まる十五分前に全校生徒で読書をするという習慣がある。

読む本は自分で用意する決まりになっているが、漫画と絵本は禁止されている。

生徒の間では評判が悪いが、桃子にとっては一番楽しみな時間と言っても過言ではない。

何故なら彼女は、三度の飯より本が好きな文学少女だからである。

「よ~し、いいぞ。座ったな、本出したな。じゃあ読め!」

坂本先生の声だけが静かな教室に響いた。こうしてやっと三年A組にもページをめくる度に擦れる紙の音と、時計の針が進む音以外には、何も聞こえない静かな十五分間がやってきたのである。

やってきたのであるが、しかし、いつもなら誰よりも喜んでこの時間を享受しているはずの桃子の様子がおかしい。

ページをめくる手は止まり、目線は本ではなく左隣に向いていた。

「な、何ですか……?」

桃子が小声で恐る恐る尋ねると、彼は机に頬杖をつきながら不機嫌そうにこう言った。

「ねぇ、本貸して」