乗るはずだった電車が二人の横を通り過ぎて行く。

若草は真っ白な表情をした虚ろな夏希の雰囲気に圧されてそこに立っているのが精一杯だった。

それでも伝えなくてはいけないことがある。

「俺とお前は両想いじゃないよ」

「それじゃ淳には好きな人はいないってことだよね。それなら今から私を好きになってよ。私きっといい彼女になるよ!淳が自慢したくなるような可愛い彼女になれるよ!」

夏希の懇願する声は必死だった。

「だって淳は、あの子を好きだって一度も言葉にしたことがない!私を嫌いだって一度も言葉にしたことがない!」

溢れてくる涙もそのままに、夏希の懇願は絶叫へと変わっていく。

夏希が取り乱せば取り乱すほど、若草の心は何故か冷静さを取り戻していく。

「俺が山吹さんをどう思っているのか、それを言葉にして伝えたい相手は山吹さんだけだ。それをお前に伝える必要なんてないだろ」

「どうして……どうして……!あんなに楽しかったじゃん、あんなに私達お似合いだったじゃん!なんであんな地味で不器用な子がいいの!!?」

「地味で不器用なんかじゃないよ」

「……え?」

それまで取り乱していた夏希がその言葉にハッとして若草を見た。

「お前がフリーマーケットで買ったネックレス、山吹さんが作ったアクセサリー、すごく綺麗だっただろ。あんな綺麗なもの作れる人が不器用なわけないんだ。輝いているんだよ、地味なんかじゃない。ただそこにいるだけで山吹さんは、俺にとって大切なたった一人の人なんだ」

「……私のことは……?でも私のことは嫌いじゃないでしょ?」

そう言って一歩若草に向かって足を踏み出そうとする夏希に向かって若草は首を横に振った。

「ごめん夏希。夏希のことは、もう好きになれないよ」

夏希を置いて、駅に向かう若草の顔は引き締まっていた。

若草が通り過ぎて行く時に一瞬香った彼の爽やかで優しい香りを感じた時、夏希の目には堰を切ったように涙が溢れて止まらなかった。