冬が来て、寒さが一段と厳しくなる頃、ついに桃子達は受験シーズンに突入した。
朝の読書の時間も、三年生に限り自学自習の時間へと変更になった。
すでに本番を迎えて結果を待っている人々もおり、教室内は日々ピリピリとした空気が流れている。
朝の十五分間が読書だった頃にはなかなか席に着かなかったクラスメイト達は、担任の坂本先生が席の間を行ったり来たりしなくとも自ら席に着き、参考書を開くようになっていた。
桃子も周りの生徒と同様に、この時間を自学自習に当てていた。
大好きな読書は高校に合格するまで休止することを、彼女は自分自身と約束している。
それはもちろん高校に合格するためだ。
けれど最近では、その合格の先に夢見ていることがある。
それはアクセサリーや雑貨をデザインする仕事に就きたいというものだ。
また、もう一つ、桃子のモチベーションを支える自分との約束が彼女にはある。
それは、高校に合格したら若草淳に自分の気持ちを伝えるということだ。
桃子は決めている。
どんな結果になってもいいから正直な気持ちを伝えよう。
参考書にある数学の問題を解きながら、桃子は改めて心の中で思った。
こんなに誰かを好きになった幸せな気持ちを、言葉にしないなんて絶対に後悔する。
ノートに書きこまれた一文字一文字が桃子の試験合格への血肉だ。
「絶対に合格するぞ……!」
誰にも聞こえないように呟いた桃子の呟きは、しかし隣の若草にだけには聞こえていた。
横目で桃子を盗み見て微かに笑う若草もまた、桃子と同じように合格したら成し遂げたいと思っている自分との約束がある。
その思いが今の彼を強く支えていた。
ペンを握る手に力がこもる。
合格したら、山吹さんに告白しよう。