新学期が始まると、三年生の教室では受験に向けた空気が以前にも増して濃くなっていた。

昼休みになると、多くの生徒が参考書を広げ、志望校について調べる様子が窺われた。

放課後には、いつになく図書室が込み合い、部活動を引退した三年生の生徒達は思い思いに受験勉強に勤しんでいる様子であった。

一方の桃子は、依然として放課後は手芸部の部室に通い、部室の隅でチクチクと刺繍に励んでいる。

文化部の生徒の部活動引退は、一か月後に予定されている文化祭での作品展示までとなっているからである。

三年間この手芸部に所属して、桃子は主に刺繍に特化して作品を作り続けてきた。

手芸部の部員は桃子を含めて四人しかいない。

尚且つ、桃子以外の三人は全て後輩で、桃子には同期がいない。

彼女は常に先輩か後輩しかいない空間の中で一人、熱心に作品に取り組んできたのである。

その様子は、いつも周りから一目置かれており、六月頃に桃子が若草とのアレコレで、初めて三日部活をサボった際にも、後輩達は

「きっと山吹先輩には山吹先輩のやり方があるのだ」
「もしかしたら文化祭に向けて大作を作る前触れかもしれない」
「山吹先輩のことだ、きっとこのお休みにも意味があるに違いない」

と言って桃子に全幅の信頼を寄せていた。