婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

蛍の観賞会Ⅰ

 西の宮。
 西門から長いアプローチを抜けて玄関に着くと侍従長のセバスが出迎えてくれました。

 両脇に頭を垂れた使用人たちが並ぶ中、私はセバスに先導されながら歩いて行きました。王家の方々や貴賓客でもないのですから、そこまで畏まる必要もないように思うのです。

 ただ皆さんの雰囲気が初めての時よりも和らいでいるような気がします。そう感じるだけでもホッとして安心しますね。

 初めて西の宮に入ってきたときの肌を刺すような鋭い視線を送った使用人たちは、得体の知れない女性だと警戒したからかもしれません。
 今はブルーバーグ侯爵令嬢だと認識されているようなので好意的な態度で接してくれています。

 約束通り、レイ様から蛍の観賞会の招待状が届きました。

 それと同時に届いたローズ様からのお手紙には、王宮に部屋を用意するので一泊するようにとのお言葉が記されていました。
 時間を気にせずにゆっくりと過ごしてほしいというローズ様の優しいお心遣いだと使者から伺いました。

 一度だけだと思っていたので驚きましたが、両親からも有難くももったいないお言葉、快くお受けするようにと後押しされて戸惑いつつも承諾いたしました。

 もちろん、王家からの招待状ですから断るという選択肢はありませんけれど。
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