素直になれない…
爆弾発言
「ねえ、何とか言ってよ」
「うーん」
唸ったっきり、これといって具体的な返事は聞こえてこない。

ここは都内のビジネス街。
都心にも近いせいか、人通りも多い駅前のカフェ。
私、坂井藍(さかいあい)はかなり氷の解けてしまったオレンジジュースをストローでかき混ぜていた。


「だから、あなたに迷惑をかけるつもりはないって、」
「ちょっと待て」
いい加減しびれを切らした私が言うのを、また止められる。

この店に入って2時間。
私が衝撃の告白をしてからでも1時間半はたっている。
その間彼が発したのは唸り声と「ちょっと待て」って言葉だけ。

「ねえ、本当に時間がないの。今日はこの後買い物をして、携帯も新しくして、今夜泊るホテルの予約も」
「だから、ちょっと待てって」

はぁあー。
何を今更待てって言うのよと叫びそうになるのをグッとこらえる。


今私の目の前にいる男性は田代雄平(たしろゆうへい)28歳。
私が26歳だから2歳年上。
男性にしては色白で、さっぱりとした塩顔。
ふちの細いメタルフレームの眼鏡をかけたいかにもインテリ風な外見で、一見とっつきにくく見える人。

「いい加減にして。雄平らしくないよ」

田代雄平は平石物産の秘書課長。
副社長である奏多さんの腹心で、社内でもキレ者って評判の人。
こんな風にウダウダするのは彼らしくない。
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