くるみ自身から自己紹介された時も、彼女の名前の響きさえ記憶の端っこにも引っ掛からなかったし、くるみにしても実篤(さねあつ)の名前に何の反応も示さなかった。

 だから、「きっと気のせいじゃろ」と思うことにしたのだ。

 そもそもそんな事実があったならきっと。
 自分ならその時点で今みたいに何らかの手を打って、彼女と関われるようにしていたはずだから。

 よく、五つ下の弟八雲(やくも)や、七つ下の妹鏡花(きょうか)からも言われるのだが、実篤はそういうところ、結構抜け目がない男なのだ。


 だからこそ父親から是非に!と請われて、この『クリノ不動産』を一任されたのだと、実篤は思っている。

 八雲や鏡花は、父親に言わせると裏表がなさすぎて商売には向かないらしい。


 元々父親としては三人のうちの誰かに家業を継いでもらえれば良かったらしいのだが、そのお眼鏡に〝ダントツで〟かなったのが実篤だった。