社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
 両親が健在の時は、くるみが作ったパンやお菓子を二人によく食べてもらっていた。

「くるみはホンマに料理が上手じゃね」

 父や母に褒められて、頭を撫でられるのがくすぐったくて、照れ臭くて……でも温かくて大好きだった。

 実篤(さねあつ)なら、またくるみにそんな時間をくれる気がして。


 十五夜にかこつけて、くるみが実篤をお月見に誘ったのは、そういう経緯だったのだけれど――。



***


 ギュッと実篤から指を絡められた瞬間、心臓が大きくトクン!と跳ね上がって、くるみは(何これ、何これ。こんなん家族には感じんよ?)と内心物凄いパニックにおちいったのだ。

 実篤はくるみの手を握ったまま全然目を閉じてくれないし……真っ赤になっているのを見られてしまう!と思ったくるみは、柄にもなく焦ってしまった。


「目っ!」

 と指摘して、何とか実篤に目を閉じてもらったのだけど――。

 今度は実篤の閉じられたまぶたの、まつ毛が思いのほか長いことに気付かされてドキドキしてしまう。

(実篤さん、かっこいい……)

 思わずそう思ってしまって、実篤のことをお兄ちゃんだと思って接していた時には決して芽生えなかったその感情に、くるみ自身驚いた。

 自分の感情を確かめたくて、実篤が目を閉じているのを良いことに背伸びして間近でじっと実篤の顔を見ていたら――。
< 58 / 419 >

この作品をシェア

pagetop