社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
「残念じゃったねぇ、宇佐川(うさがわ)くん。それでも(ほいじゃけど)あの子ンことは社長が最初っから凄い(ぶち)ひいきにしちょったんバレバレじゃったんじゃけ、横恋慕する気なんじゃったら急がんといけんかったのは分かっとったじゃろーに。長い事モタモタ(えっとモタクサ)しよるけん遅れを取るんよ」

 野田の辛辣な言葉に、宇佐川がシュンとする。

「そりゃあそうなんですけどぉ〜。年齢的に考えても絶対自分に軍配が上がるはずじゃし、焦らんでも大丈夫かな?とたかをくくっちょったんです」
 と溜め息を落とす。

「ちょっ、宇佐川、お(まっ)、そんなこと思うちょったんか」

 思いもよらぬところに伏兵(ライバル)がひそんでいたことに今更のように驚かされた実篤(さねあつ)だ。
 宇佐川には悪いが、彼がリアクションを起こす前にくるみに告白できて良かった!と心底思ってしまった。

(いや、けどあの場合はくるみちゃんが動いてくれたけん言えたんか)

 およそひと月ばかり前の――。十五夜の晩のアレコレを思い出してみると、割と情けなくもあり。
 でもそう考えてみたら、(宇佐川が先に動いたけぇ(ちゅ)うて、くるみちゃんは俺にしかなびかんかったんじゃないん?)とも自惚れたくなった実篤だ。


「わっ、社長、すみませんっ! 俺、つい本音がっ」

 無言で宇佐川を睨んではみたものの、内心はほくほくの実篤は、「まぁ、宇佐川の気持ちも分からんではないし、別にええんじゃけどね」と寛容なことを言ってみる。

 なのに。

「ヒッ!」

 どうやら実篤、我知らず口元が緩んでしまっていたらしい。

「おっ、俺っ、営業行ってきます!」

 小さく短い悲鳴を上げて宇佐川が慌てたように事務所を後にすると、野田が「社長、ココんところがヘラッとなって、気持ち悪いお顔になっちょりますよ?」と、自分の口角あたりを指差して苦笑した。
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