eスポーツ!!~恋人も友達もいないぼっちな私と、プロゲーマーで有名配信者の彼~
「――ハル氏、残念でござる」

「マンダムさん、私も同じ気持ちです」

「大会だとか事務所とか関係なく、すごく楽しい勝負だったでござる。もっともっと戦いたいぞい……」

マンダムさんと私は拳と拳を合わせた。

そのタイミングに合わせて、実況が大きな声を張り上げる。

「Aブロック第3回戦、まさかの逆転勝利をおさめたのは、ハル選手だぁぁああ!」

歓声と拍手の渦に包まれる。結果は3―2だった。
マンダムさんも途中からマカロンの動きに対応してきて、ピンチな場面もあった。
でも、どうにか勝てた。負けていてもおかしくない戦いだった。

ステージを降りると、とたんに膝が笑って転びそうになる。
すかさず近くにいたヤマトが、私の体を受け止めてくれた。

ヤマトの体温が、服越しにも伝わる。

「ご、ごめん!」

「大丈夫か?」

「うん、勝ったら急に疲れが出たみたい」

「いい戦いだったよ。見ていてこっちも熱くなった」

そう言ってヤマトは私の肩にポンと手を置いた。

私のこの熱さも、さっきヤマトに伝わってしまったのかな。
ヤマトが私を応援してくれるから、冷静になれた。

「ヤマト、ありがとうね」

私がそう言うと、ヤマトは頬を赤らめた。

「な、なんだよあらたまって。もうすぐ決勝なんだから、今のうちに休んでおけよ」

「うん……でも、次に戦う相手の分析もしておきたいし」

「あのな、その気持ちもわかるけどずっと集中しっぱなしはだめだ。本当に大事なときに力がでなくなる。Bブロックの次の試合が終わるまでは、少しだけ休んどきな」

そう言ってヤマトは私の手を引くようにして、休憩所まで連れて行ってくれた。

私の手を取るヤマトを見て、どこかで女性の悲鳴がしたような気がする……。

ドア一枚を隔てるだけで、ずいぶんと会場の音は小さくなった。

さっきまでいた戦場から解き放たれたようで、ふっと緊張の糸が切れる。

そういえば、さっきのマンダムさんとの試合は集中しすぎて、息をすることも忘れてたような気がする。

「――つめたっ」

首筋に当てられたのは、いちごジュースだった。
ヤマトが自販機で買ってくれたみたいだ。

「ほら、糖分摂って」

「あ、ごめんお金……」

「そんなのいいから」

今日のヤマトはなんだか強引だ。私を応援して、心配しているのか。
でも、今日のこのヤマトがいなかったら、私は今もずっと緊張しっぱなしだったかもしれない。

「ありがとう。いちご、好きなんだよね」

「知ってる。前に言ってた」

ヤマトは目線を逸らしながら、コーヒーに口をつける。

ほっとする。固くなっていた体がほぐれていくようだった。

「次戦ったら、決勝か……」

「うん。ここまで来たからには、優勝したい」

「ハルならできるさ」

「――そうは問屋が卸さないですわ!」

聞き慣れない甲高い声に驚き、振り向く。

そこには、品のあるエレガントな服装をした、まさしくお嬢様といった感じの女性が立っていた。

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