eスポーツ!!~恋人も友達もいないぼっちな私と、プロゲーマーで有名配信者の彼~
「私が……私が、勝ちますから」
ツバキさんは私を一瞥すると、にやりとした笑みを浮かべた。
「はぁ? 庶民のハルさんがわたくしに勝てるとでも? わたくしの推しのヤマトさんに手を出すばかりか、あなたやマンダムさんのおかげで、わたくしが大会に出ているのに話題にもならない」
ツバキさんは大きな音を立てて廊下を踏む。
「――イラつくんでございますの! ゲームをしてヤマトさんに近づくなんて……庶民は浅知恵が回りますのね」
「浅知恵だなんてっ!」
私が言い返そうとしたときに、ツバキさんからすさまじい闘気を感じた。思わず、身がすくんでしまう。
「庶民に出来て私にできないはずはありません。不可能なことなんてないのですから。プロゲーマーの方々に指導をいただきまして、だいぶ仕上がっていますわ」
この人、ヤマトのことが好きなんだ。それで、きっと私と同じように……。
「応援してくれるリスナーでも、ハルへの暴言は許しませんよ」
ヤマトは私の前に手を出し、ツバキから距離を取ろうとする。
「……いいですわ。わたくしが正してさしあげます。ヤマトさんの隣に立つのは、誰がふさわしいのか、試合で決めましょう。決勝で待っていますわ」
そう言い放つと、ツバキさんは優雅に会場に戻っていった。
「……西園寺ってあの大手銀行の一族だよな。最近eスポーツのスポンサーになったって話題になっていたけど、まさかツバキさんがそこのお嬢様だったなんて」
ツバキさんが優勝して、その実力を世間に示した場合、事務所にオファーが来たらさすがに断れないかもしれない。
まだ、理由はわからない。けれど、ヤマトは女性が苦手なんだ。
無理はさせたくない。それに、私も……あんなキレイな人がヤマトとふたりきりになるのは、嫌だ。
「安心して。私、負けないから」
ヤマトからもらったいちごジュースを飲み干すと、私は気合いを入れる。
ヤマトは私を見て、微笑んだ。
「ほんっと、ハルのそういう真っすぐなところ……すげぇ好き」
「え?」
今、好きって言った?
「なんでもない! ツバキさんの試合見に行こう」
ヤマトは早足で会場に戻る。
もしかしたら今、私はイチゴみたいに赤くなっているかもしれない。