eスポーツ!!~恋人も友達もいないぼっちな私と、プロゲーマーで有名配信者の彼~

side:ヤマト

青龍杯終了後、俺は事務所に呼び出された。
今日、自分は戦っていないのに体から熱気が抜けない。

ハルに勝ってほしいという気持ち。
ハルのスーパープレイ。
会場の盛り上がり。
勝負を諦めない姿勢。
ハルの笑顔……。

そのひとつひとつが全部輝いて、俺の心を熱くさせた。

事務所に入る前に深呼吸して、気持ちを落ち着かす。

「――お疲れ様です」

事務所には、e-Japan代表の海原さんがいた。

「お疲れ様。悪いね、休みの日に呼び出しちゃって」

「いえ、全然大丈夫です」

海原さんは、俺を椅子に座るように促した。

「今日の青龍杯、すごかったね。ハルさんは近年稀に見る逸材だ」

「そうでしょう⁉ ハルは努力家なのもありますが、持っている戦いのセンスもあるんですよね。今日の決勝! 勝利への姿勢! もう痺れましたよ!」


つい興奮してしまう俺を、海原さんはにこやかな顔をして見ている。

「女性NGだったヤマトくんから、まさかこんな話が聞ける日が来るなんてね」

「……っ! ハルは普通の女性とは違うっていうか」

「うちは恋愛禁止じゃないし、全然いいんだけど。まぁ、所属しているゲーマーが誹謗中傷を受けないぐらいには動かせてもらうけどね」

「海原さん、別に俺とハルは恋愛とかそんなんじゃ!」

「はいはい。今はそうじゃなかったとしても、これからはわからないでしょ?」

海原さんは俺の心の奥を見透かしているかのように、優しい目をしていた。

「青龍杯が終わってからの印象だと、仮にヤマトくん達が付き合っても文句はでないんじゃないかな。ヤマトくんは、どうなの?」

今日、一番に輝くハルを見て本当に嬉しかった。
でも、そのなかで俺は……。

色々な人に囲まれ、賞賛されているハルを、独占したいと感じていたんだ。

ハルのせっかくの晴れ舞台にこんなことを思っているなんて、絶対に言えないけど。

「ハルが俺のことをどう思っているかはわかりません。でも、初めて女性と一緒にいたいと思った。守りたいと思った。……違うな。女性が、だからじゃない。ハルだから、一緒にいたいと思っています」

そう言ったあとに、自分の言ったことに自分で恥ずかしくなる。
耳まで熱くなっているのを感じていると、海原さんは吹き出した。

「ぶははっ! すごいね、ハルさんは。ヤマトくんにここまで言わせるんだから」



「わ、笑わないでくださいよ! 俺だってまだ色々悩んでるんです」

「悪い悪い。でも、そう自覚できたなら動いた方がいいよ。ハルさん、今日でかなり目立ったからね。そうとう人気出るよ」

「でしょうね……」

今日、目をハートマークにしながらハルを見ていた男たちを思い出す。

いやだ、とられたくない。

「ゲームの関係だけじゃない、繋がりを作った方がいいね」

「ゲーム以外の繋がり、ですか」

「うん、それとね……これをハルさんに渡してくれない?」

海原さんは事務所の名前が入った大きな封筒を机に置いた。
この封筒は、俺も見覚えがある。

「勧誘してきてくれない? 彼女がもしプロゲーマーを目指すなら、うちで育てたい」

海原さんの鋭い目が光る。
……予想はしていたけど、やっぱりか。

「わかりました。どうなるかはわかりませんが、話しはしておきます」

「よろしくね。……もし、ふたりがまたなにか炎上に巻き込まれることがあったら、全力で守るから安心して。次に変な輩が来たら法的措置も検討するから」

ずいぶんと頼もしいことを言ってくれる。
きっとこれも、今日のハルが戦いのなかで海原さんを惹きつけたのだろう。

封筒を受け取り、立ち上がろうとしたら海原さんに呼び止められる。

「ちょっと待って。これも渡しとく」

「……これ、人気の遊園地のペアチケットじゃないですか」

「知り合いからいただいたんだけど、残念ながら忙しくてねぇ。それも一緒に渡して、ハルさんと遊んできなよ。優勝祝いとでも言ってさ」

「ええ⁉ そんなのデートじゃないですか! いきなりそんな誘いしたら嫌われますよ」

「ヤマトくんから誘われて嫌いになるような子、いるの?」

「わかんないですよ!」

「とにかく、それで遊んできな。若いふたりがゲームでしか遊んでないなんて、不健全だよ」

プロゲーマーの事務所なのに、この人はなんてことを言うんだ。

「先手必勝。恋愛もゲームと通ずるよ」

海原さんは鋭い目をしたまま言った。
しかし、言わんとしていることもわかる気がする。


可愛くて、努力家で、健気で、強くて、特別なハル。
もしかしたら、ひとめぼれだったのかもしれない。
いや……それからも、知れば知るほどハルのことが好きになっていく。



俺が俺じゃなくなっていく。




ハルを、俺だけのものにしたい。
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