一夜限りのはずだったのに実は愛されてました

お見合い

いよいよ明日になってしまったお見合い。
今日仕事の後にそのまま福岡に帰るつもりで大きなバッグを持ってきた。

可奈ちゃんも真子ちゃんもそれをみて寂しそうな顔をされたが何も言われない。
私の考えが決まっているとわかっているからなのだろう。

通常業務を終え、荷物を持ち駅に向かおうとすると久しぶりに松下さんに声をかけられた。

「紗夜、空港行くんだろ?乗せてくよ。ラッシュにこんな大きな荷物持ってたら迷惑だろ」

そういうと私の肩にかかった荷物をひょいと取り上げ、パーキングへ行ってしまった。

あ……

私は慌てて後を追いかけた。

「松下さん!送っていただかなくて大丈夫ですから。そんなお手数は掛けられません」

「いいから、早く乗れよ。飛行機の時間もあるだろ?」  

荷物を後部座席に置かれてしまったため、私は気まずい中助手席に座った。

「紗夜、俺はあの日……」

いきなりその話をされ、私は慌てて遮った。

「いいんです。大人だから一夜のことだってわかってますから。お互いもう忘れましょう。ね!」

私にとっては幸せな夜だったけど松下さんにはしこりの残る夜だったのだろう。
もうこの話はしたくなかった。
惨めになりたくなかった。

「紗夜。俺は……」

「だからもう話したくないんです!!!」

私は声を荒げてしまった。
その声に松下さんは驚いたようで黙り込んでしまった。
と、同時に目に涙が浮かんできてしまった。
私は慌てて顔を背け、窓の方を向いた。

そのまま松下さんは何も話すことなく空港へ送ってくれた。

「ありがとうございました」

「気をつけて。何かあったら連絡しろよ。俺が助けてやるから」
 
またそんな私を泣かせるようなことをいう……。

私は顔が見えないように俯きながら「ありがとうございます」とだけしか声にならなかった。
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