一夜限りのはずだったのに実は愛されてました

やっぱり無理です

マンション購入の手続きをしようという拓巳さんをなんとかなだめ、私たちは部屋へ帰った。

「紗夜、あのマンション気に入らなかった?俺は子供のためにもいいと思ったんだけど。公園も目の前にあるし、買い物にも不便しない。学校も通いやすいよ」

「ごめんなさい。やっぱり私、拓巳さんと結婚できません」

「紗夜?どうして??」

「ごめんなさい」

私はそれだけいうとあとは言葉にならなかった。
拓巳さんは私に近づき、どうして?と聞いてくれるが私は何も言えなかった。
彼に、私を好きになって欲しかったなんて、ましてや子供の父親になるのではなく、私を愛して欲しかったなんて言えるわけがない。
あの時、責任を取るなんて言葉が欲しかっだわけではなかった。

拓巳さんにいくら聞かれても私はごめんなさいを繰り返すだけだった。

「拓巳さん。荷物をまとめてマンションに帰ってもらえませんか?色々良くしてもらったのにごめんなさい」

「紗夜!それはどういうこと?子供だっているんだぞ」

「私が1人で育てます。拓巳さんには迷惑をかけません」

「俺の子供でもあるんだ。紗夜だけが決めることじゃない!」

「ごめんなさい」

私は泣きながら何度も謝った。

「紗夜、俺はお腹の子供の父親になるって決めたからここに来たんだ。君たちを養う覚悟をしてきた」

拓巳さんの覚悟はお腹の子供を育てることとその母親の私を養うことでしょ。
やっぱりそれは私たちはの責任からだよね。
聞けば聞くほど情けなくなる。
私は拓巳さんに養ってもらうために妊娠したわけではない。

「お願い。帰って」

私は泣きながらお願いするが拓巳さんは頭を縦に振ってくれない。

私は反動的にコートとバッグを掴み、家を飛び出した。

遠くから「走ったらダメだ!」という声が聞こえるが止まれない。
少しでも早くここから離れたかった。
拓巳さんのそばにいたらまた決心が揺らいで、隣にいたくなってしまうかもしれないから。

私は泣きながらタクシーに乗り、同郷の玲子の家へ向かった。

何度も何度もかかってくる電話に応答することはできず、そのまま電源を落とした。
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