一夜限りのはずだったのに実は愛されてました

政略結婚……

私はみんなに話していないが実家は有名なお茶屋だ。
福岡では名前の知れた店の娘。
兄が跡を継ぎ切り盛りしているが昨今の日本茶離れから、家業は厳しい状況にある。
代がわりしてから兄は色々とやっているようだがなかなか成果が見えないようだ。
そんな中上がってきた私のお見合い話。
相手はうちと付き合いのある旅館業の跡取り。
彼は私より10個年上で35歳。バツ1で子供がいるとのこと。その子供が男の子だったので引き取って育てており、私はその子供の養母にならされる。
兄は私にこの話をすることを躊躇っていたが昔ながらの九州男児の父は、家業の役に立てと言わんばかりにお見合いを進めてきた。
確かにお相手はいくつも旅館を持つ九州では名前の知れたところ。そんな旅館の跡取りへ嫁げるなんて幸せ者だろうと父は私の話を聞くこともなくガハハと喜んで話してくる。

25歳で養母になるなんて……
私は誰とも付き合ったことはない。
社会人になっても松下さんに惹かれてやまず、見ているだけで幸せだった。
そんな私が10歳年上の男性に嫁ぎ子育てするなんて、聞いただけで体が震えた。

『そろそろ仕事を辞めて帰って来なさい。年が明けたら見合いの席を設ける』

それだけいうと父からの電話は切れてしまった。
昔から私の話なんて聞いてくれた試しはない。
兄ばかり優先され、可愛がられていた。
私はオマケでしかなかった。
跡取りの兄さえいれば私はいらなかったんだと思わざるを得なかった。
進学する時も全て父に決められ、やっと大学だけは母に頼み込み東京へ出してもらった。
卒業後必ず戻ると約束させられていたが私は戻らなかった。
もう父の監視下にいたくなかった。

でも自由はもう終わりだ。
父が決めた限り私の結婚は決まりだ。

スマホを片手に震える体を抱きしめ布団の中で歯を食いしばった。

泣かない、泣いたら負け。

私はいつだって、こうして布団の中で涙を堪え、歯を食いしばってやってきた。

泣いたって父は諦めてくれない。
泣くだけ無駄だ。

私は大きく息を吐き出した。

ふぅーーー

まだみんなと仕事をしたいのに辞めなければ……

東京から離れることを考えたくなかったが、父が絶対的権力を持っている我が家は父の決定が全てだ。
むしろ、いくら母に言われたからといって私を東京に出してくれたことの方が異例だった。
許可されたときにはあまりの嬉しさに泣いて喜んだことを覚えている。

ここまで自由にさせてもらったことを喜ばなからばならないのかも知れない。
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