結子は自分の置かれた状況を思い知り、改めてがっくりと項垂れた。

「……響兄さまが、結婚……」

 もし最初から事情を知っていれば、この見合いを回避することも出来たかもしれない。両親にも入谷家にも付かれないうちに仮の恋人でも作っておけば、奏一の申し入れを断る理由にもなっただろう。

 けれど結子はこの場に来てしまった。奏一に会って、互いの両親の前ではっきりと結子を望む言葉を口にされてしまった。

 だからもうこの運命から逃れることは出来ない。弱小ドレスメーカーとはいえ、二十六年もの歳月を社長令嬢として過ごしてきた結子は『政略結婚』の意味をちゃんと理解していた。

「……仕方がない、もんね」
「へえ、いいんだ?」
「よ、よくはないけど……! でも響兄さま、幸せなんでしょ?」

 奏一の言う通り響一の選んだ相手がごく普通の会社員ならば、彼らは自分たちのような『政略結婚』ではない『恋愛結婚』なのだろう。

 それが少し羨ましくも恨めしくもあるが、憧れ続けるだけで自らアプローチをしなかったのは結子の方だ。響一から声を掛けられることを夢を見るだけで、何も行動には移さなかった。

 だから響一が自分で選んだ相手と結婚して、今はもう幸せだと言うのならば諦めるしかない。

「それならもう、奏兄さまと結婚するしかないじゃない」