独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 もちろん本心から望んでいるわけではない。だがこれは結子と奏一の結婚ではなく、佐山家と入谷家の結びつきなのだ。

「響兄さまじゃないなら、相手が誰だって同じだもの……」
「……」

 これは恋愛結婚じゃない。恋をして愛し合って、一生傍にいたいから結婚するのではない。まったくもって甘やかな関係じゃない。

 そんな素敵な関係を築くなら相手は響一が良かったが、叶わないのなら結子にとっては相手が誰でも同じことだ。

「あのさ、結子。さっきから兄さん兄さんって、俺に失礼だと思わないの?」

 奏一の声のトーンがまた少し下がったことに気が付き、ハッと顔を上げる。視線を向けるといつも笑顔の彼には珍しく、眉間に皺を寄せて結子をじっと見つめている。

 どちらかといえば響一は怒った顔や真顔が多い。逆に奏一は常に笑顔を絶やさないので、怒った顔はあまり見たことがない。珍しく静かに怒る表情を他でもない自分へ向けられ、結子はぐっと言葉に詰まった。

「今この見合いの場にいるのは、兄さんじゃなくて俺なんだけど?」
「……っ」

 冷たい表情で怒りの台詞を呟く奏一に、結子は急に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「ごめんなさい」

 だから素直に謝罪の言葉を口にする。

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